ヒトラーを見た。
物語が始まって数分も経たないうちにヒトラーが銀幕に姿を現した。その姿は世界史で習った、演説台で猛々しく拳を振り上げる"あの"ヒトラーではなく、単なる猫背の神経質そうな(それでいても矢張り周囲に緊張感を放っていたが)男だった。
秘書の面接を行うヒトラーは、悪魔ではなく人間・ヒトラーだ。これだけ見ているとホロコーストを指導した張本人とはとても思えず、それがこの後どうやって悪魔的なヒトラーと繋がっていくのか想像を掻き立てた。 次のシーンで、場面は陥落寸前のベルリンへと移る。 手を震わせ、狂人のようなヒトラー。歴史からイメージされるヒトラーがいた。ヒトラーは悪魔と人間を行ったりきたりしつつ、ドイツは降伏へと向かっていく。 この映画は、オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督の前作「es」以上に人間のだれもが隠し持っているであろう狂気が鮮やかに描き出されている。 「es」以上と書いた理由は、ヒトラーを見ていて自分の狂気にも気付いたような感覚になったからだ。病院で、足を切断するシーンが出てくる。あまりに生々しいシーンで、瞬間的に顔をそらせてしまったのに、暫く後で同じような場面を見たときには顔をそらさなかった。人間は残酷な光景でも慣れてしまう。 恐怖感覚が麻痺してしまった自分に気付いたとき、この映画の凄さと共に、人間の怖さを思い知った。 ヒトラーは悪魔では無い。悪魔的な部分があまりにも強く出てしまった、我々と同じ「人間」だったのだ。 *etc ・ゲッペルス役の演技が良い。特に自分の子供を毒殺するシーン。 ・ヒムラーが裏切ったと知ったときのヒトラー。 ・「ヒトラーおじさん。」 ・最後のインタビュー。はっきりとした口調で話される言葉は、映画を強く印象付ける。 ・エンドロール。始まるとすぐに席を立つ人がいるが、ハードすぎる映画を見たあとはクールダウンの意味で明るくなるまで座っていることをお勧めします。 |