重慶大厦
ヘイ、ヨー。重慶大厦を知ってるかい?
金持ちがペニンシュラを目指すのを横目に、その対極が行き着く場所だぜ
何年旅を続けているのか分からないヨーロピアン
ベビーシッターで出稼ぎのインドネシアン
家族でゲストハウス暮らしのアフリカン
カレーを売ってるインディアン
慣れない顔でうろつくジャパニーズ。
あそこは
24時を回るころ、誰もが足を踏み入れたがらないゲットーか
薄暗い中でギラつく、あの眼に見つからないように息を潜めて眠る魔窟か
偶々入ったゲストハウスで1時間またされた所に
インドネシアンが男を振り切る手伝いをしたんだ。
あんたは金ばかり。
屑みたいな人間だってあんたの女から聞いたんだ。
あたしには男がいる。
嘘だと思うならホラ、話してみなよ。
インドネシアンに渡された携帯
彼氏のフリをしろと云う。
お前はいったい誰なんだ?何人だ??お前の電話番号を寄越せ。
淡々と聞こえる電話口の声。
冗談半分で話しているうち、背筋が寒くなる。
電話口はスリランカン。
あのインド特有の、絶対逸らさないあの眼が浮かんだ。
慌てて電話を返した。
誰が従業員なのかも解らないゲストハウス。
ここは誰もが顔見知りらしい
荷物を置いた部屋。鍵が無い、もう出なきゃ約束まで時間が無い
もうずっと待ってる。マネージャーは何時くるんだ?
そんな僕に「部屋には誰も入れさせないから心配するな。」と言った、もう何年も住む女。
此処には此処の仁義があるらしい。
旦那は死んだ。腹には新しい命が宿ってる。
通り過ぎてきた過去が違いすぎる。
外に出た。
時間じゃない別の何かが迫ってる
エレベーターなんか使わずに、自分の足で階段を駆け降りた
何かを振り切らなければと、そう感じていた。
が
しかし
インドネシアンから貰ったSIMカードが僕を捕らえる。
あなたは誰?
これはあの娘の携帯でしょう?
あの娘の電話番号を知っているんでしょう?
教えなさい・・・
得体の知れない電話の目の前で
旨そうに焼ける肉から煙が昇る。
振り切ったかに見えても決して放さない
番号を押すだけで捕まえられる現実
これは本当に現実だろうか?
現実へ。
SIMカードを新しいものに挿しなおした
これで僕の番号を知っている人間はこの世に何人もいなくなった
肩が軽くなるのを感じた
帰って飲んだチャイは旨かった。
あくる朝。
宿を出るとき一人の黒人と声を交わした
何気ない挨拶から、一緒にエレベーターを降りたタンザニアン
彼の名前はベン
皆無から始まる何かの縁
そして挨拶で終わる路上の縁
白い息をはきながら空港行きのバスを待つ6時半
振り返るとベンがそこに居た
一瞬強張る僕の顔
ベンは笑顔
視線の先を見ると同じ笑顔のおばちゃん
顔なじみらしい
フィリピンへ帰るらしい。
見送る笑顔
YO、メリークリスマス
やがてバスが来る。
時間だ、空港へむかうんだ
振り切れない縁に僕は手を振って答えた
香港は今日も晴れ。
あそこは
出遭った同郷同士が笑顔で言葉を交わす場所さ
異郷の女が異郷の男を振り切る電話をする場所さ
親子が団欒する我が家さ
生活の場所さ
2009.12.20 Sunday
18:46
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