何故だったのか23
急に空が暗くなりはじめ、虫がぱたりと鳴くのを止めた。
妙にひんやりとした風が肌を撫で、波の音は耳に入らない。 太陽へ目を向けてみると、もう、太陽は糸のように細かった。 真空中にいるようで、声が伝わってこない。 世界から自分の周りだけ離れたような不思議な静寂。 ドラゴンボールの神龍が出るとしたらこんな雰囲気なんだろうな、なんてことも仕様の無いことも頭をよぎった。 雲の隙間に太陽を見つめる。雲が疾る。太陽は消えたり、また現れたりしている。天気は夜の土砂降りから回復しても晴れにはならなかった。 見えてくれ! 雲と俺との真剣勝負だ。とにかく太陽を見せろ、と願って見つめて、暫く。 太陽は丸を描いた。 あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!!!!!!!!!! 絶叫。 その数秒後、意識が遅れて来た。 あー、俺、絶叫してる。自分のことを、そう思いながら我に返った。 この叫びは、数分の間に想像を絶する出来事に触れたことで出た叫びだ。 日食のメカニズムは学校で習ったし、暗くなる瞬間もビデオで見たことがある。それでも叫ばずに居られなかったのは、日食が僕の想像を越えていたからだ。 空が暗くなり、虫が鎮まり、人も黙る。それら全てを日食が引き起こした。 そんなこと、体感せずに知ることが出来るかい? 数分も立たないうちに、太陽神はお隠れになった。 段々と厚い雲が太陽と僕の間に立ち込める。それと同時に、高ぶっていた心も落ち着く。叫んでいた自分を思い返して、少し恥ずかしくなった。 辺りにはメロウな空気が漂う。 皆座り込んで、何処となく眺めている。永遠に続く黄昏。誰も何もしなければいつまでも、このまま続いていくような黄昏だ。この余韻に浸りたい。 イメージしたものと、実際に体験したものは同じものだったのか解らない。ともかく5年前に目指したものは、目の前で起こった。 |